多重交通事故について

多重交通事故について

私が現職当時取り扱った事故ですが、ある真冬の県境の峠道において車両10数台が関係する人身事故を実況見分する事がありました。
基本、多重事故は一つの交通事故として取り扱うのではなく、何件かに分けて見分するのです。その方が見分官も分かりやすいですし、当事者への説明もしやすいのです。

事故の形態としては、雪が凍結して滑りやすい路面状況の中、なだらかな下り坂をスピードを出して走行していた四輪駆動車がスリップし、対向車線にはみ出して対向車と正面衝突、それに後続車が次から次へと追突したというものでした。

追突した車の中には、妊婦さんもいて、残念なことに流産してしまったのです。
胎児も人間であり、子供を失った事は大変悲しい出来事でありますが、残念なことに法律では胎児は過失致死などの対象外となるのです。つまり、法律上は一個人としてみなされないのです。母親にあっては、納得出来ない気持ちは痛いほど十分理解できました。本当に理不尽ではありますが、法治国家の日本ではしょうがないということも事実です。

見分の図面は、時系列で何十枚も作成し、いわゆるパラパラとめくると、車が動いているように見える図面を数日かけて作成しました。そして各車両の動きや過失を明らかにしていったのです。

真冬の凍結路面は誰しもがスリップするという事を理解しているはずですが、自分だけは大丈夫だとか、私の車は四輪駆動車だから大丈夫だとか、ちょっとした過信や気の緩みが悲惨な事故を招くのです。
そもそも四輪駆動車は四輪に動力が加わるだけで、上りは威力を発揮しますが、ブレーキングは二輪駆動車と変わらないのです。ですから冬の事故で四輪駆動車が多いという事実は、上りがスリップせずにのぼれたから大丈夫だなどと過信し、そのまま下り坂に突入するから事故が起こるのです。
誰もが加害者、被害者になりうるのが交通事故です。
悲惨な交通事故が一件でも少なくなることを祈るばかりです。

事故鑑定士 K

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